2022年06月30日

報道特集「原発事故と甲状腺がん」

TBS「報道特集: 原発事故と甲状腺がん」について
 掲題のテレビ番組が5/21に放映されました。僕はたぶん耐えられないだろうと思ってリアルタイムでは観るのを避けたのですけど、その後TVerで観られるようになったので、観て論評するのは僕に課せられた試練に違いないと思い、とにかく観ました。

 正直、非常に辛い番組で、たかだか20分を一気に観通せず、休み休み四回に分けて完走しました。二度と観る気にはならないので、記憶違いがあるかもしれないけれども、記憶をたどって論評しておきます。

 とにかく問題だらけの番組で、僕はこの番組が「報道」を詐称することに怒りを覚えました。これは報道番組ではありません。放射能デマと風評を垂れ流すだけの極めて悪質な番組です。

 この番組は「311子ども甲状腺がん裁判」の原告6人の中に名を連ねたひとりの20代女性を主人公として進みます。彼女は震災後に体調不良をきたし、その後の甲状腺検査で甲状腺乳頭が発見されました。福島県立医大の医師の勧めによって手術を受けたそうですが、医師が被曝影響ではないと言ったことに不信感を覚えて、手術は東京の病院で受けたとのこと。

 もちろんこれは事実に違いないのですが、初めに挙げられた体調不良は放射線被曝影響ではありません。これははっきりしていて、低線量被曝による健康影響はほぼ発がん率の増加に限られ、番組で述べられたような体調不良は生じません。これは彼女が悪いのではないんですよ。彼女の発言をそのまま流したTBSが悪質なのです。低線量の被曝影響で何が起きるかは相当に明らかになっています。仮にも原発事故関連の報道に携わるものがそれを知らないとは言わせませんよ。これは、視聴者の不安を煽るために敢えてカットしなかったとしか考えられません。これが冒頭部分。

 とここまで書いてから、一か月以上経ってしまいました。いくつか批判記事が出たものの、あまり大きくならずに終わったのかなという気がします。Buzzfeedは早かった上に服部美咲さんに取材してなかなかいい記事を書いていたと思います。

 碌な総括もないままもう下火なのかなと思っていたところに、Newsポストセブンがかなり力の入った記事を出してきましたよ。甲状腺がんと甲状腺検査については高野徹先生にかなり詳しく取材しています。冒頭で紹介された体調不良が甲状腺がんの症状ではないこともきちんと説明しておられる。「報道特集」をご覧になったかたは高野先生の説明だけでもお読みいただくといいと思います。

 実はこの件では僕も取材を受けて、いろいろ説明はしたのだけど、専門家に聞くほうがいいと言っておきました。その時、記者のかたは高野先生への取材を予定していると言っておられて、かなりよく下調べして取材に臨んでおられるという印象を受けました。1時間ほど取材を受けて、僕の発言はふた言だけ使われただけですが、それでいいと思います。

 とりあえず、この記事を読んでいただければ、番組の概要はわかるはずです。悪質な放射能デマ番組と断言してかまいません。

 ここではこういった記事で見逃されがちなことについて追記的に書いておきます。それは「当事者を引っ張りだすことの非人道性」です。この番組の主役となった彼女が実際になにを考えているかは知る由もないのですが、ただはっきり言えるのは、彼女もいろいろな意味での被害者であり、彼女にはなんの非もないことです。これが「被害者バッシング」につながらないことを願います。

 いろいろな意味でのと書きましたが、具体的には彼女は第一に甲状腺検査の被害者です。無症状(甲状腺がんの症状は出ていないことに再度注意)の甲状腺がんをエコーで見つけてしまった結果、九分九厘無用な手術を受けたわけです。県立医大以外のところで受けたというのが非常に気になるのですが、とにかく甲状腺検査の結果として手術を受けたのだから、検査の被害者というのは確かです。

 次に、「たちの悪い反原発活動家」の被害者でもあります。訴訟を支援しているのは「311甲状腺がん子ども支援ネットワーク」という組織で、正体はあまりよく分かりません。名前からすると崎山比早子氏がやってる「311甲状腺がん子ども基金」との繋がりがあるのだろうと想像されるものの、明記はされていないようです。「基金」のほうはなかなか難しいのですが、崎山氏は甲状腺がんは放射線被曝影響という立場の人なので、まあそういう団体だと思っておいてください。表向きは甲状腺検査でがんが見つかった人たちの支援を目的にしているものの、利用していると考えるべきでしょう。訴訟を主導しているのは井戸謙一・海渡雄一・河合弘之の三弁護士で、検索してもらえば分かるけど、まあ反原発活動家と呼んで差し支えない。これらの人々が甲状腺がんの手術を受けた人たちを焚き付けて訴訟に持ち込ませたという見立てで間違っていないのではないでしょうか。

 ここで、被曝が原因だとして因果関係を争おうとしているところが非常に大きな問題で、UNSCEAR報告などを踏まえれば因果関係は立証できないでしょう。いや、地裁レベルでは時々とんでもない判決が出るから、それに賭けているのかもだけど、最高裁まで行けば九分九厘否定されると予想されます。「被害者」を担ぎ出して勝ち目のない訴訟に持ち込み、自分たちのイデオロギーのために利用しようという構図は、タミフルやHPVワクチンの副反応訴訟でも見られましたた。いずれにしても、彼女はこれら「活動家」の被害者と言っていいのではないでしょうか。

 最後に、もちろん東電原発事故がなければ甲状腺検査もなかったのだから、原発事故の被害者であるのは間違いありません。ただ、被曝影響ではないだけです。

 だから、無理筋のおかしな訴訟ではあっても、原告を責めてはなりません。彼女らにはなんの責任もない。あくまでも被害者です。ただ、その意味は多くの人たちが想像するのとは違っているかもしれません。

 無症状の子どもへの(大人ならなおのこと)甲状腺エコーは「死ぬまで悪さをしないがんを見つけてしまう」過剰診断のリスクが大きいので、こんな検査はもちろん推奨されていません。非推奨の検査を強引に続けているのが福島県で、そのために、たくさんの人がおそらくは「受ける必要のない手術」を受けました。それでもなお、検査は続けられています。この責任は福島県と実施主体の福島県立医大にあると思います。

 なんとかしなくてはならないはずです。この問題への関心はあまりにも低い。この訴訟が契機になって、甲状腺検査問題への関心が高まればいいのかもしれませんが、訴訟もあまり関心を惹いていないように思います。いや、原告であり「被害者」である彼女たちのことを思えば、訴訟は関心を惹かないほうがいいかもしれません。

 最後に、甲状腺検査問題についてはあけび書房から「福島の甲状腺検査と過剰診断 子どもたちのために何ができるか」という本が出ています。僕も一章書いています。関心を持っていただけるとありがたいです。
 
posted by きくちまこと at 21:42| Comment(1) | 日記

2022年06月20日

マイク・オールドフィールド

最近毎週末にはマイク・オールドフィールドの「オマドーン」を聴いてしまいます。週末しか音楽を聴かないので、これは事実上毎日聴いているのと同じ。初期三作の中ではもちろん「チューブラーベルズ」がいちばん知られていますが、僕は「オマドーン」のほうがいいと思ってるんですよ。で、最近になって2010年にマイク自身がミックスし直したバージョンというのを買って、今はまっています。

実は僕が持っていたのは"Mike Oldfield boxed"っていうCDボックスで、ドイツに住んでた時に買ったから1991年くらいかな。「チューブラーベルズ」「ハージェストリッジ」「オマドーン」の初期三枚にボーナストラックというセットです。これが曲者で、もともとはアナログの4チャンネル・ミックスだったんですね。4チャンネルとは懐かしい。僕の実家にもパイオニアの4チャンネル・オーディオがありましたよ。あれはよかった。もちろん、CDは4チャンネルじゃないんでステレオです。ずっとこれを愛聴していました。ところが、ある日、もしかするとバランスがおかしいんじゃないかと思ったんですね。よく考えてみると、4チャンネル・ミックスをどうステレオに落としたのかわからない。

そこでディスクユニオンで中古のCDを買ったところ、これがそもそもうまく再生できない。傷かなあ。よくわかんないけど、ところどころで音量が急に下がったりする。あー、もやもやすると思ってワールドディスクの通販サイトを見たら、2010年のリミックスがあるのを発見して買ったわけです。ついでに「インカンテーション」のリマスター盤も書いました。

ま、ちゃんと聴き比べてないので、何が変わったのか分かってないのですけど、やっぱり「オマドーン」最高、というわけで毎週聞いているのです。荘厳なパートと素朴な(あるいは間抜けな)パートのバランスが絶妙で、特にパート1(旧A面)の最後の盛り上がりは感動的です。素晴らしい。

ところで、「オマドーン」を買うちょっと前にRobert Reedという人の"The ringmaster part 1,2"というのを買っていました。僕はこの人を知らなかったんだけど、Magentaのギターの人っぽいです。ワールドディスクの中島店長がマイク・オールドフィールド系として紹介していた作品で、MVを観たんですよ。これ


マイクっぽいっちゃマイクっぽい。もっとケルトかな、みたいに思って2枚まとめ買いしたところですよ、このMVよりも遥かにマイクっぽい。っていうか、まんまです。マイクっぽい曲を作る人はたくさんいると思いますけど、このロブさんはギターがね。このMVだとちょっとわかんないかも。マイクのエレクトリックギターって音色も変だし、グリッサンドは独特だし、ビブラートも変じゃないですか。あのビブラート、他の人がやったら怒られますよ。ところがこのロブさんはマイクそっくりなギターを弾くんですよ。音色もグリッサンドもビブラートもマイク。マイクそっくりにギターを弾く人は初めて聴きました。アルバムはなかなかいいと思います。でも、笑っちゃうな。グレタ・ヴァン・フリートとツェッペリンみたいな感じですかね。いいけど笑っちゃう。

ロブさんはこの6/25と26に「オマドーン45周年記念コンサート」をやるみたいです。ほんとにマイクが好きなんやね。

さて、日本のマイク・オールドフィールド、吉良知彦については書きたいことはたくさんあるのですが、一昨日のブログに「夏秋冬春」のライブバージョンについて書いたので、読んでね。吉良さんはマイクの影響を受けつつも、そっくりさんには決してならないオリジナリティがあるので、ロブさんとは相当違う。「夏秋冬春」は吉良知彦渾身の「ほぼ宅録」作品です。その新バージョン「夏秋冬春2022」について書かれた小峰さんのブログを貼っておきます。これは傑作の予感しかないので楽しみです。吉良知彦とzabadakはもっと聴かれるべきです。「夏秋冬春2022」はインストなので、世界中のプログレ者に聴かれることを願っています。
https://koko.asablo.jp/blog/2022/06/20/9501794


posted by きくちまこと at 23:01| Comment(0) | 音楽

2022年06月19日

古いブログ

2014年まで大学のサーバーでブログを運営していました。ニセ科学の勃興もあったし、911陰謀論もあったし、何より東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故がありました。僕の情報発信の拠点ともいうべきブログでした。かなり広く読まれていたのではないかと思います。もちろん毀誉褒貶ありました。

東電原発事故以降、書く頻度にむらがあって更新が滞ったりしたのは、毀誉褒貶とは関係なくて、書ける気がする時だけ書いていただけなのですけれども。ツイッターがあったしね。その後、2014年10月の投稿を最後にしばらくして閉鎖を余儀なくされてしまいました。その経緯についてはいろいろ憶測されたかたもおられたかもですが、別に外圧があったとかではなくてですね、使っていたppblogというサーバーソフトウェアの更新ができなくなってしまったのです。ppblogの公式サイトを見れば分かるように、2012年で更新が止まってしまったのですよ。ところが、ppblogを動かすためのPHPはバージョンが上がり、騙し騙し使い続けていたものの、ついにもう僕の手ではにっちもさっちもいかない状態になりました。

ブログを大学のサーバーで動かすのには、発言の責任の所在を明らかにするという意図があって、敢えてそうしていたのですけど、まあブログなんて外部サーバーに任せるべきですね。東電原発事故以降はツイッターでの情報発信がメインになっていて、ブログにはわりと大きめのまとめを書いていました。ちょうど「いちから聞きたい放射線のほんとう」を出して、あまり大きなまとめを書くこともなくなっていたこともあり、とにかく動かないブログは諦めることにしました。

このさくらのブログを持ってはいたんですよ。でも、なかなか書かないまま、今日まで来たという感じです。短いことはツイッター、長めの文はFacebookやnoteに書いていました。なんとなく思い立って、ブログを再開したわけですが、もう大学のサーバーじゃないので趣味全開で書きます。

さて、kikulogと題した過去のブログには膨大な文章の蓄積があります。もちろんコメントツリーも含めて全て残してあります。しかし、コメントツリーのサルベージはなかなか大変。とりあえず、ブログ本文だけは以下に置いてありますので、ご覧ください。僕ももうすぐ定年なので、このブログの記録も遠からずさくらに移さないといけないですね。いろいろ面白いことも書いてあるので、お暇な時にどうぞ。

kikulog記事一覧
posted by きくちまこと at 18:17| Comment(0) | 日記