2023年03月13日

星新一賞

ちょっと時間が経ってしまいましたが、第10回星新一賞というのに応募していました。最終選考に残ったので、せっかくだからグランプリが欲しいなあと欲を出してはいたものの、そこまでうまくいくはずもなく、優秀賞(図書カード賞)というのをいただくことになりました。優秀賞の中ではいちばん下とはいえ、2000作以上の応募の中からグランプリと優秀賞合わせて5作の中にはいったのだから、上出来と言うべきでしょう。

星新一賞は実質的には短編SFの賞なのですが、SFと謳わずに「理系文学」と謳っています。僕はそこをかなり真剣に考えて、自分なりの理系文学を書きました。正直、そういう観点で審査されたかはわかりません。選評を読むと、普通にSFの審査をしたようには思いますが、そこはきちんと趣旨に合わせたということで。

今回の応募作では「林檎園の科学」をテーマにしました。ヒントになってるのはKaguya planetが「果樹園が出てくるSF」を募集したことなんですが、Kaguyaのは短すぎるので出していません。あくまでもヒントということで。

僕の父方の曽祖父は「青森りんごの開祖」と呼ばれる人物です。亡くなった父も長く弘前大学でりんご栽培の研究に携わりました。だから、林檎園の科学をテーマに書くのは、僕にとっては自然というか、一度は書いておきたいテーマでした。参考文献は父の著書です。とはいえ、もちろんそれだけではSFにならないので、林檎園で何が起きればSFになるかを考えて書いたのが今回の応募作品です。

そういう経緯なので、主眼は「林檎園小説」で、結果としてSFの部分はいささか甘くなったかなとは思います。でも、「理系文学」という意味ではかなり満足のいくものが書けた気がします。あとは、上に書いた事情でかなりパーソナルな作品になりました。そこらへんの評価は読者におまかせします。

星新一賞の表彰式は新型コロナ禍で途絶えていて、ひさしぶりの「オフライン」開催だったようです。残念ながらパーティのようなものはなく、出席者も少数でしたが。コロナ前はパーティがあって、SF関係者も多く出席していたようですね。ちょっと残念。

審査員だった池澤春菜さんとお話しさせていただき、猛プッシュされて某団体に入ることになったみたいです。作家じゃないのに。小松左京事務所の乙部さんや星ライブラリーの星マリナさんともお話させていただきました。

さて、これからどうしますかね。グランプリを取りたいからまた星新一賞に出すのか、それとももうこれでいいのか。星新一賞は1万字制限なので、ちょっと短い。今回の応募作品にはちょうどよかったとは思っていますが。気持ち的には創元SF短編賞の最終に残りたいなあというのが強いけど、星賞向きのアイデアが浮かんだら出そうかな。星賞は何を求められてるのか、ちょっとはっきりしないところがあります。僕の今回の応募作品はエンタメ性皆無の半ば普通小説なので、創元なら通らないな。でも、グランプリ作品はエンタメ度高い。難しいね。

受賞作品集はhontoで電子書籍として無料配布されています。ぜひお読みください。

posted by きくちまこと at 15:45| Comment(0) | SF

2023年01月28日

ヴァリス

ずいぶんと久しぶりにP.K.ディック『ヴァリス』を読みました。これまでは大瀧訳だったけど、今回は山形訳。山形訳は好き嫌いが分かれそうだね。

『ヴァリス』はディックの代表作にして、最高に狂った小説で、こんなもんが出版されたのはこの時点でディックがベストセラー作家になっていたからでしょう。その前の売れない作家時代ならとても出版されなかったと思う。

ディック自身の神秘体験をもとにした半分実話で半分は妄想でできている作品ですが、この神秘思想のところを真に受けると頭がおかしくなるので、狂った作家の妄想作品と受け取るのが正しいでしょう。

これは『高い城の男』の続編として構想された小説で、それが二転三転してこうなったのですよね。途中段階の作品は『アルベマス』として出版されてて、まあ『高い城の男』の続編と言われればそうかなという感じ。この世界は「帝国」が支配するまやかしの世界だというのが『高い城』と共通のビジョンで、『ヴァリス』ではいずれ救世主が現れて帝国は滅ぼされるという希望(というか願望)が語られる。

しかし、とりあえず「帝国」を支配してるのがニクソンで、ウォーターゲート事件によるニクソン辞任が神性の顕れだというのは日本人には理解しがたいし、そもそもしょぼい話だね。まあ、ディックにとってはニクソンが重要だったのでしょう。

『ヴァリス』はディックの代表作だけど、SF読み始めの人には勧められないし、それどころかたいていのSFファンにも勧めがたい作品です。ディック・マニアだけが読めばいいと思う。ただ、『ヴァリス』三部作の最後を飾る『ティモシー・アーチャーの転生』はディック作品の中で最高に美しいので、これを読むためだけに頑張って『ヴァリス』と『聖なる侵入』を読むのもありかもですね。

posted by きくちまこと at 22:51| Comment(0) | SF

2023年01月03日

創元SF短編賞

今年も創元SF短編賞に応募しました。と言っても、結局純然たる新作は書けずじまいで、「第二回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト」に出して一次選考を通った作品を改稿して出しました。新作じゃないのは忸怩たるものがありますが、しかたありませぬ。
さなコンが1万字だったところ、今回の改稿版は2万字ちょっとなので、倍以上になりました。原稿用紙換算で60枚。いい感じの長さだと思います。オリジナルは相当無理して1万字に収めてたので、これでようやくほんとうに書きたかった作品になったかなという感じです。

ただひたすらハードSFで、科学の議論が延々と続いて小説の構成を壊しかねない(壊してる?)くらいになってしまい、そこをどう評価されるか。あと、やっぱりとにかく地味なんですよ。創元はわりとエンタメ重視的なところがあるから、地味なのは不利だろうなあとは思いつつ、気に入ってる作品なので。

去年は2/28に一次の結果が出てたから、今年も同じ感じになるのでしょう。去年より先に進みたいものですが、どうなりますかね。

そこそこのできの50枚の作品を7本書けば、コンテストを通さなくても出版できるのだとは思いますけれども、とりあえずコンテストに出すのはモチベーションになるので。
posted by きくちまこと at 16:18| Comment(0) | SF