2023年01月28日

ヴァリス

ずいぶんと久しぶりにP.K.ディック『ヴァリス』を読みました。これまでは大瀧訳だったけど、今回は山形訳。山形訳は好き嫌いが分かれそうだね。

『ヴァリス』はディックの代表作にして、最高に狂った小説で、こんなもんが出版されたのはこの時点でディックがベストセラー作家になっていたからでしょう。その前の売れない作家時代ならとても出版されなかったと思う。

ディック自身の神秘体験をもとにした半分実話で半分は妄想でできている作品ですが、この神秘思想のところを真に受けると頭がおかしくなるので、狂った作家の妄想作品と受け取るのが正しいでしょう。

これは『高い城の男』の続編として構想された小説で、それが二転三転してこうなったのですよね。途中段階の作品は『アルベマス』として出版されてて、まあ『高い城の男』の続編と言われればそうかなという感じ。この世界は「帝国」が支配するまやかしの世界だというのが『高い城』と共通のビジョンで、『ヴァリス』ではいずれ救世主が現れて帝国は滅ぼされるという希望(というか願望)が語られる。

しかし、とりあえず「帝国」を支配してるのがニクソンで、ウォーターゲート事件によるニクソン辞任が神性の顕れだというのは日本人には理解しがたいし、そもそもしょぼい話だね。まあ、ディックにとってはニクソンが重要だったのでしょう。

『ヴァリス』はディックの代表作だけど、SF読み始めの人には勧められないし、それどころかたいていのSFファンにも勧めがたい作品です。ディック・マニアだけが読めばいいと思う。ただ、『ヴァリス』三部作の最後を飾る『ティモシー・アーチャーの転生』はディック作品の中で最高に美しいので、これを読むためだけに頑張って『ヴァリス』と『聖なる侵入』を読むのもありかもですね。

posted by きくちまこと at 22:51| Comment(0) | SF

2023年01月03日

創元SF短編賞

今年も創元SF短編賞に応募しました。と言っても、結局純然たる新作は書けずじまいで、「第二回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト」に出して一次選考を通った作品を改稿して出しました。新作じゃないのは忸怩たるものがありますが、しかたありませぬ。
さなコンが1万字だったところ、今回の改稿版は2万字ちょっとなので、倍以上になりました。原稿用紙換算で60枚。いい感じの長さだと思います。オリジナルは相当無理して1万字に収めてたので、これでようやくほんとうに書きたかった作品になったかなという感じです。

ただひたすらハードSFで、科学の議論が延々と続いて小説の構成を壊しかねない(壊してる?)くらいになってしまい、そこをどう評価されるか。あと、やっぱりとにかく地味なんですよ。創元はわりとエンタメ重視的なところがあるから、地味なのは不利だろうなあとは思いつつ、気に入ってる作品なので。

去年は2/28に一次の結果が出てたから、今年も同じ感じになるのでしょう。去年より先に進みたいものですが、どうなりますかね。

そこそこのできの50枚の作品を7本書けば、コンテストを通さなくても出版できるのだとは思いますけれども、とりあえずコンテストに出すのはモチベーションになるので。
posted by きくちまこと at 16:18| Comment(0) | SF